すごいニッチ手稿

この報告いる?

たもちろさま

これは小学生の時に体験した出来事です。私は当時、常軌を逸した田舎に住んでいました。その集落にはコンビニはもちろん自動販売機すら存在せず、白亜紀の恐竜が跋扈していました。

 

ある日、学校から帰ると、私の家の前に一匹のワニがいました。
体長は一メートルくらいでしたでしょうか。全身に茶色い毛が生えており、尻尾も長いものですから、遠目に見ると巨大な蛇のように見えます。しかしその胴体からは、二本の長い脚が伸びていて、背中にはコウモリのような羽がありました。
ワニは私の姿を見つけるや否や、威嚇するように口を開けて「ウオーン」と鳴きました。
私はすぐに、それが人面爬虫類であることに気づきました。その時、この世に生を受けて始めて『恐怖』という感情を知り、足早に家の中へと逃げ込みました。

 

 

祖父に助けを乞うたのです。すると、祖父は「あれは『たもちろさま』といって、アイデンティティー・クライシスによって生まれたものじゃ」と語りました。

そして、あの化け物は山の神様で、我々に豊穣を齎してくれるが、邪魔な時はぶち殺しても良いらしい、とも言いました。
しかし、当時の私にとって、そんな話はどうでも良かったのです。とにかく怖かったんですね。今思い返せば、あのワニはおそらく、山の神ではなくて、いかれた村人だったのだと思います。

 

後から聞いた話ですが、
私が帰った後、祖母はそのワニを追いかけ回し、最終的には川に蹴り落としたそうです。それからしばらくして、集落の畑が不作になった時、祖母は川へ行って、ワニの死体を引きずり出してきて、お墓を作ってあげたそうです。
結局、祖母は何者だったのでしょう?